長調・短調が定まる前のヨーロッパで使われていた音階を教会旋法といいます。白鍵の並びを、ド(ハ/C)以外の音から始めた形として覚えるのが早道です。使う音は同じでも、始まりの音が変わると半音の位置が動き、響きが変わります。
旋法の中心になる音を終止音(フィナリス)といいます。旋律は終止音を中心に動き、終止音で終わります。主音・属音・中音といった音度名は長調・短調の和声から生まれた呼び名なので、旋法の音は「第3音」「第6音」のように番号で呼びます。
7つの名前は、ドから順に頭文字だけ拾って「イ・ド・フ・リ・ミ・エ・ロ」とリズムで唱えて覚えます——イオニア・ドリア・フリギア・リディア・ミクソリディア・エオリア・ロクリア。ドレミファソラシドに重ねれば、どの音から始めた形かがそのまま出てきます。
この曲では、終わりへ向かうところで第7音(ド)が半音上げられることがあります。ドリア旋法は第6音(シ)がすでに高いので、第7音も上げると同じ主音の旋律短音階と同じ並びになります。旋法から外れた音というより、そこから借りた音です。
この2枚は、ニ短調の楽譜と見分けが付かないことを見せるために調号を♭1つにしてあります。違いは♮の付いたシ1つだけです。旋法の曲をどう記譜するかは一通りではなく、調号を付けずに臨時記号だけで書くこともあります。どちらで書かれていても、調号だけ見て調を決めず、実際に鳴っている音を確かめる——旋法を見抜く手がかりはそこにしかありません。
旋法を書く課題は、全音と半音を1つずつ並べるより速い解き方があります。旋法は長音階の第何音から始めた形かが決まっているので、その音数ぶん下の長調の調号を付ければ、あとは主音から順に並べるだけです。
| 旋法 | 長音階の | 調号にする長調 |
|---|---|---|
| イオニア | 第1音 | 主音と同じ |
| ドリア | 第2音 | 長2度下 |
| フリギア | 第3音 | 長3度下 |
| リディア | 第4音 | 完全4度下 |
| ミクソリディア | 第5音 | 完全5度下 |
| エオリア | 第6音 | 長6度下 |
| ロクリア | 第7音 | 長7度下 |
「ファ(ヘ/F)から始まるミクソリディア旋法を書きなさい」なら、ミクソリディアは第5音から始まる形なので、その完全5度下=変ロ長調の調号(♭2つ)を付けます。あとはファから順に並べてファ・ソ・ラ・シ♭・ド・レ・ミ♭・ファ。半音の位置を数え直す必要がありません。
ハ長調の旋法(白鍵の並び)をいったん書いてから、主音が目的の音に来るまで全体を移調する方法もあります。こちらも確実ですが、親の長調から入るほうが手数が少なく、コードに対して使う音階を考えるときにそのまま応用できます——Dm7 にレ(ニ/D)のドリア、G7 にソ(ト/G)のミクソリディアを当てるのは、どちらも「ハ長調の第何音から始めるか」を言っているだけです。
この解き方は、旋法を「長音階を別の音から始めた形」ととらえているから成り立ちます。節の最初に書いた見かたが、そのまま計算になっているわけです。
| 旋法 | 白鍵での主音 | 特徴 |
|---|---|---|
| イオニア | ド(ハ) | 長音階と同じ並び |
| ドリア | レ(ニ) | 自然短音階の第6音が半音高い |
| フリギア | ミ(ホ) | 自然短音階の第2音が半音低い |
| リディア | ファ(ヘ) | 長音階の第4音が半音高い |
| ミクソリディア | ソ(ト) | 長音階の第7音が半音低い |
| エオリア | ラ(イ) | 自然短音階と同じ並び |
| ロクリア | シ(ロ) | 自然短音階の第2音と第5音が半音低い |
旋法の見分けかた
旋法を見分けるには、まず第3音を見ます。主音から長3度なら長旋法系(イオニア・リディア・ミクソリディア)、短3度なら短旋法系(ドリア・フリギア・エオリア・ロクリア)です。
長旋法系なら、次に第4音と第7音を見ます。第4音が高ければリディア、第7音が低ければミクソリディア、どちらでもなければイオニアです。
短旋法系なら、第2音・第5音・第6音を見ます。第5音が減5度ならロクリア、第2音が低ければフリギア、第6音が高ければドリア、どれでもなければエオリアです。
例題
C(ハ)を終止音とするドリア旋法の第3音は?
正解: E♭
ハを終止音とするドリア旋法の第3音はE♭です。音階: C - D - E♭ - F - G - A - B♭ - C。ドリア旋法は自然短音階の第6音を半音上げた形です。
ジャズでは「F リディア」「G ミクソリディア」のように、音名を頭に付けて呼びます。これはその音を主音とする旋法という意味で、「ハ長調」と同じ言い方です。クラシックでは「リディア旋法」とだけ呼んで主音を文脈に任せることが多いので、頭のアルファベットを何かの記号だと思うと読めなくなります。
旋法は昔の音楽だけのものではありません。ドリアやミクソリディアはケルト・スペインの民謡やジャズに広く残り、リディアは映画音楽の浮遊した明るさによく使われます。長短調に収まらない響きが要るとき、いまも現役の語彙です。
覚えるのは「長音階・自然短音階とどこが違うか」です。7つを別々に暗記するより、既に知っている2つとの差で覚えるほうが確実に速く、忘れにくくなります。