主となる音に添えて、飾りとして演奏する音を装飾音といいます。小さな音符で書かれ、書かれた音価そのままの長さは持ちません。
| 種類 | 書きかた | 演奏 |
|---|---|---|
| 短前打音 | 斜線の付いた小音符 | 主要音の直前に短く |
| 長前打音 | 斜線のない小音符 | 主要音の長さを分け合う |
| 複前打音 | 小音符が2つ以上 | 主要音の直前にまとめて |
長前打音がどれだけ取るかは、主要音の音価で変わります。2分割できる音符(4分音符など)なら半分、付点音符なら3分の2を取るのがふつうです。楽譜によっては実際に鳴る形がそのまま書かれていることもあります。
記号で示す装飾もあります。演奏のしかたは時代や作曲家によって幅がありますが、楽典では基本の形を覚えます。
| 記号 | 名前 | 基本の演奏 |
|---|---|---|
| tr | トリル | 主要音と2度上の音を細かく交替 |
| ∽ | ターン | 上・主要音・下・主要音の順に回る |
| ∿ | プラルトリラー | 主要音と2度上を1回往復 |
| ∿(縦線) | モルデント | 主要音と2度下を1回往復 |
| 縦の波線 | アルペジオ | 和音を下から順に鳴らす |
装飾音は拍のどこに置くかで印象が変わります。バロックから古典派では、装飾音を拍の上(主要音の位置)から始めるのが原則でした。ロマン派以降は拍の前に置く読み方が広がり、現在の楽譜では作曲家の指示や版の注記に従います。楽典では「時代によって違う」と知っていれば十分です。
トリルは、どちらの音から始めるかが時代で違う代表例です。バロックでは2度上の音から始めるのが普通で、近代以降は主要音から始めます。また終わりに後打音(下の音を経て主要音へ戻る形)を付けることも多く、これも小音符で書き添えられます。
装飾音のぼう(符尾)は、ふつう上向きに書きます。長前打音はバロック時代の作品に多く見られる書き方で、近年の作品では実際に演奏する形をそのまま書くのが普通です。
例題
音符の上に tr と書かれています。この装飾記号の名称は何ですか?
正解: トリル
tr はトリル(trillo)の略で、主要音とその2度上の音を交互に速く奏します。tr のあとに波線が続く場合は、その長さのぶんトリルを保ちます。
実際の曲で見てみます。バッハのメヌエットの3小節目、音符の上に付いた小さな記号がモルデントです。書かれた音からすぐ下の音へ下り、また戻る——3つの音を素早く鳴らします。記号は音符の上に小さく書かれ、実際に鳴らす音は書かれていません。奏者が記号から読み取って弾きます。