楽譜に書かれた音と、実際に鳴る音が違う楽器を移調楽器といいます。クラリネットやトランペットが代表です。楽譜に書かれた音を記譜音、実際に鳴る音を実音といい、この2つを区別することがこの節のすべてです。
楽器の名前に付く調(B♭管・F管など)は、その楽器でド(ハ/C)の音を書いたときに実際に鳴る音を表します。B♭管の楽器でドと書けば、シ♭(変ロ/B♭)が鳴ります。
| 楽器 | 書かれた音と実音の関係 | ドと書くと鳴る音 |
|---|---|---|
| B♭管クラリネット | 長2度低く鳴る | シ♭(変ロ) |
| B♭管トランペット | 長2度低く鳴る | シ♭(変ロ) |
| A管クラリネット | 短3度低く鳴る | ラ(イ) |
| F管ホルン | 完全5度低く鳴る | ファ(ヘ) |
| E♭管アルトサクソフォン | 長6度低く鳴る | ミ♭(変ホ) |
見つけかた
記譜(書かれた音)から実音を求めるときは、楽器の調のぶん下げます。B♭管でド(ハ)と書かれていれば、長2度下のシ♭(変ロ)が鳴ります。
実音から記譜を求めるときは逆に上げます。B♭管にシ♭を吹かせたければ、ドと書きます。
調号も同じだけずらします。B♭管の楽譜は、実音の調の長2度上の調号で書かれます——実音がハ長調なら、楽譜はニ長調(♯2つ)です。
例題
F管ホルンでCと記譜された音の実音は?
正解: F
F管ホルンは記譜より完全5度低く鳴ります。記譜Cの実音はFです。
表の右端の列が、この仕組みのすべてです。「ドと書くと何が鳴るか」——それがその楽器の調名になっています。B♭管ならシ♭、F管ならファ、E♭管ならミ♭。楽器の名前はそのまま「ずれの大きさ」を言っているわけです。
オーケストラのスコアを読むときは、これが全部いちどに掛かってきます。クラリネットの段だけ調号が2つ多く、ホルンの段には調号が書かれないことすらあります。実音で読むには段ごとに読み替えが要ります。
同じ調名でも楽器の族によって向きが違うことがあります。F管ホルンは完全5度低く鳴りますが、F管トランペットは完全4度高く鳴ります。楽器の名前と、鳴る向きをセットで覚えます。
いっぽう、ピアノ・ヴァイオリン・フルート・オーボエ・ファゴットは記譜音と実音が一致します。こうした楽器を実音楽器といいます。移調楽器の問題は、まずどちらなのかを見分けるところから始まります。
移調楽器の問題は、向きを取り違えると答えがちょうど2倍ずれます。B♭管で長2度下げるべきところを上げると、正しい答えから長2度×2=長3度離れた音になります。「記譜→実音は下げる、実音→記譜は上げる」を先に声に出してから書き始めるのが確実です。
実際のスコアで確かめます。ベートーヴェンの交響曲第6番〈田園〉第1楽章から、B♭クラリネット・Fホルン・第1ヴァイオリンの3段を並べました。同じ響きを、楽器ごとに違う高さで書いているのが見えます——クラリネットの譜面は実音より長2度高く、ホルンは完全5度高く書かれています。ヴァイオリンだけが記譜と実音が同じです。